2016/02/26

まちを「生きる」ことと「知る」ことの距離

大分間があきましたが、2015年度データ調査/データ分析ワークショップ」最後のご紹介です。今回は前橋遠征についてのレポートです。昨年12月に、同市の「アーツ前橋」を訪問しました。

美術に詳しい方であればご存知の方も多いでしょうが、前橋市は47都道府県の県庁所在地のなかで最後に美術館を持った都市です。20131026日に「アーツ前橋」は開館しました。元々百貨店が入っていた建物をリノベーションした、開放感のある美しい文化施設です。授業の一環で同館を訪れようと考えたのは、いわゆる大都市圏からは少し離れた自治体が、芸術祭ではなく常設の美術館を積極的に活用する判断をしたこと、また同館が「地域連携」に専従の学芸員を置いている点がユニークだったからです。

現地ではまず、同館の企画展「ここに棲む‐地域社会へのまなざし」を学生と一緒に訪れました。「建築」をテーマとした展覧会でしたが、建築そのものを見せるというよりは、建築を通して「まちを/と生きる」ことを再考するコンセプトになっており、偶然とはいえ、このワークショップ全体のテーマと重なる展覧会に巡り合えたことは幸運でした。


写真1 アーツ前橋でのレクチャーの様子
その後、アーツ前橋で地域アートプロジェクトを担当されている学芸員の家入健生さんから、同館の取り組みについてレクチャーを受けました(写真1)。家入さんが実際に携わられた具体的なプロジェクト、そして自身も前橋(商店街)の住民として感じているまちの変化について生き生きとした話をうかがえました。学生たちは、館の取り組みにも興味を示していましたが、家入さんの仕事の仕方/生き方からも刺激を受けている様子でした。これは、美術館に限らず地域に根差したNPO等でも同様の事例が存在するはずですが、地域連携、地域おこしといった仕事はその仕事にやりがいを覚えれば覚えるほど、プライベートも地域に開かれ、良い意味で仕事と私生活の境界が曖昧になっていくわけで、その点が就職活動間近の3年生には眩しく映ったようです。レクチャー後もお忙しいなか、家入さんにはアーツ前橋とも縁の深い商店街地域で運営されている文化施設をご紹介頂きました。

写真2 Maebashi Worksの屋上
このように家入さんとの出会いもとても幸せな出会いだったのですが、今回の訪問を通じて学生が新鮮だと感じたのは、自分の身体のスケールで報道や研究の対象でしかなかった「まち」を感じることだったようです。訪れた文化施設の一つ、「Maebashi Works」(写真2)はアーティスツ・コレクティブのような施設で、職・住・展示が一体となった施設ですが、この運営形態が可能なのは、首都圏からさほど遠くなく、かといって首都圏ほど生活費もかからない前橋の立地条件が背景となっていました。これは、この文化施設だけではなく、商店街で学生が話をうかがったアパレル店舗も同様でした。特殊な技法を用いたTシャツを販売していたのですが、このような購買層が限定されたアパレル製品は、インターネット、もしくは都心のセレクトショップ等で販売ができれば一定の売り上げになるため、都心に店舗を構える必要もないそうです。また、シャッターすらおろさないまま時が止まった店舗も商店街には散在しており、自分の住むまちが都内では田舎だと感じていた学生たちも、自分の住むまちよりも人口規模の大きい前橋で目の当たりにした風景に驚きを隠せないようでした。このように、まちを「知る」ことと「生きる」ことのギャップにふれたこと、この点も学生にとっては大きな収穫となりました。

 このように、当「データ調査/データ分析ワークショップ」では、なるべく読むことや書くことだけでは伝わらない学びのあり方を学生とともに試行錯誤しています。受講者の参加度が高ければ高いほど得られるものが大きな授業であり、これはトケコミで開講されているどのワークショップ科目にも当てはまるものです。もし、この一連のレポートにご関心をもった方がいらっしゃれば、ぜひ今年のオープンキャンパス等で東経大を訪れて下さい!


2015年度II期「データ調査/分析ワークショップ」は、東京経済大学の「進一層トライアル」に採用された教育プログラムです。

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