2016年7月24日日曜日

「ポケモンGO」と「複数の現実」


 ポケモンGOの配信された7月22日は、広告論の授業の最終回。たまたま、「物語の力」というテーマでした。携帯電話のCMが、「犬のお父さん」や「桃太郎」など、物語によるキャンペーンをしていることを取り上げるつもりだったのです。

 ですが、急遽、テクノロジーによる物語生成の話も加えました。

 VR(ヴァーチャル・リアリティ)は、人工現実を作り出す方向です。AR(オーグメンテッド・リアリティ)は、拡張現実といわれ、現実世界に情報をつけ加えることで、リアリティを広げます。

 VRだと別世界に没入しますが、ARは「こちら側の世界」を拡張するという感じです。ポケモンGOは、プレイヤーのいる場にキャラクターが表れるので、ARともいえますし、ARよりも大胆にVRを取り入れて、現実の世界と仮想の世界がとけあうMR(ミクスト・リアリティ)、つまり、複合現実とも評されるようです。

 ただ、授業では、ポケモンGOよりも、カンヌライオンズという広告祭で、2016年の銀賞を取ったロッキード・マーチン社による「火星探検バス」 (The Field Trip To Mars) のCMに学生の反響がありました。 

 学校のバスで校外学習に出かけます。これは、ほんとのリアルな世界。しかし、画面では、バスの窓が変化して火星の世界が外部に見えるのです(CMの中だけではなく、実際に)。遠く離れた惑星の仮想世界が展開します。ゴーグルをつけたりするのではなく、スクールバスごと「向こう側の世界」に連れて行ってくれるのです。

 これは、同社による教育イベントとして行われました。バスが街を走る道筋と、火星上での画像の動きは、一致するようになっているので、まさに火星探検の雰囲気があります。子供たちの興奮する声がバスの中に満ちていました。ちなみにロッキード・マーチン社は、2028年に火星を周回する軌道上に宇宙基地を作ると、5月18日に発表しました

 これからの商品、空間、イベントは「複数の現実」をどのように組み合わせてコミュニケーションするのかというリアリティ・デザインが求められる……。広告論の授業は、こういう結論で終わりました。

 翌日、静岡へ講演に行きました。東経大の卒業生の会が行われたのです。静岡駅から会場へ行く途中に、小梳(おぐし)神社という古い神社があります。祭神は、スサノオノミコトとクシナダノヒメ。徳川家康にも因縁のある神社で、駿府城の守護神でもあるとか。

 その神社では、20人ほどの男女が、スマホを手にポケモンGOをしていました。「ゲット!」と騒いでいる人もいます。

 不思議な気持ちになりました。スサノオの神話、家康にまつわる逸話、ポケモンの物語が、夏の神社に重層的に存在していたからです。もちろん、そこには、神社の隅に寄り添う浴衣姿のカップルの恋物語も重なってきます。

 いままでも、場所や空間には、重層的な物語の歴史があります。でも、そこにテクノロジーの力で、ありありとした「もうひとつの物語」が「現在進行形」で加わるのです。

 ポケモンGOをやりながら、思わず、入ってはいけない施設に迷い込む人も出ているとか。VR、AR、MRが生み出していく「複数の現実」の中で、どう振る舞っていけばいいのか。これからの私たちの課題でもあるのでしょう。
(関沢英彦)

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