2017年3月3日金曜日

【学問のミカタ】#春から○○

大学は授業期間が終わり、春休み期間に入っているわけですが、3月に入ったので春休みもあと一ヶ月です。新しい年度の始まりである4月が近づいてきています。



 この時期にTwitterの検索で大学名を検索すると、「#春から○○」というハッシュタグが散見されます。○○には大学の名称が入るわけで、例えば、東経大であれば「#春から東経」とか「#春から東経大」というハッシュタグが使われているようです。

 そうしたハッシュタグは新入生をサークルに勧誘するために使われているケースも多々あるようですが、「#春から○○」というハッシュタグをつけて「フォローお願いします」と書いているアカウントもみつかります。「#春から○○」というハッシュタグを使って、同じハッシュタグを見ている人たちに対して「フォローお願いします」と言っているのは、春からの新しい環境での生活に向けて新たな関係をTwitter上で作ろうとしていることがうかがえます。

 教員がそういうことをするのは悪趣味に思われるかもしれませんが、そういったアカウントを確認してみると「大学用」「大学垢」という言葉がプロフィールに書かれている場合があります。「垢」というのは「アカウント」の略として使われているネット上の俗語のことです。つまり、大学用のアカウントを新しく開設して、そういったツイートをしているのだと思われます。そしてわざわざ「大学用」「大学垢」といったことを書いているからには、大学用とは別のアカウントもおそらく使っているのだろうと推測できます。

 こうしたアカウントの使い分けの役割の一つは、進学先である大学での関係において(または、まだよく知らない人たちに対して)見せる自分と大学以外での関係において見せる自分を分けることにあると考えられます。望ましい結果を得ることを目標として他者に与える印象をコントロールしようとすることを自己呈示(self-presentation)といいますが、大学での生活での新しい人間関係のための自己呈示がアカウントの使い分けからうかがえます。

 また、自分で伝えようとしなければ他者には知ることができないようなことを他者に話したり、見えるところに書いたりすることを自己開示(self-disclosure)といいます。一般に自己開示は他者との関係を深める有効な方法の一つであると考えられていますが、ソーシャルメディア上での自己開示はプライバシーや個人情報に関する懸念に関わります。そういった懸念とのバランスのなかで「大学用のアカウント」なるものが作られているのではないかと考えられます。



 こうした「#春から○○」での関係形成は大学入学後どうなっていくのでしょうか。このことについてちゃんと調べたことはありませんが、おそらく多くの場合は入学後の対面での人間関係にはあまりつながってはいかないだろうと予想しています。

「#春から○○」というだけあって、春になってしまえば「○○」という物理的空間のなかに入ることになります。それなりの規模の大学であれば、同学年の学生をすべて知ることは困難なくらいに人はいます。そしてそこにいる人たちが「○○」という共通性をもつことは前提となるため、入学前には前景化していた「#春から○○」は後景となり、趣味・関心であったり、サークルであったり、といった共通性のほうが人間関係をつくっていく上で前景化していくのではないかと考えられます。

 では、「#春から○○」での関係形成に何の意味もないのかといえば、そういうわけではないと思います。可能性の一つとして、新しい生活への不安の軽減が考えられるでしょう。入学後の人間関係にはつながらなかったとしても、入学前にTwitter上で自分と同じような仲間とフォローし合うことで、友人づくりへの入学前の不安をおさえることができるかもしれません。



 いろいろ書きましたが、これらのことはデータをとって検証したわけではないので、いずれも予想(仮説)に過ぎません。メディア利用行動に対する「学問のミカタ」としては、実際の利用者からデータを集めることでそうした仮説を検証する必要があります。

 それはともかくとして、「#春から○○」と書いている方々が4月から充実した生活を送れるとよいなと思いますし、「#春から東経」「#春から東経大」と書いている新入生に対しては4月からの大学生活を教員としてサポートしていければと思います。



昨年、共著で『ツイッターの心理学』という本を出しました。専門書として書いたものなので誰にでも薦められるものではありませんが、ツイッターなどのソーシャルメディアに関する「学問のミカタ」に関心のある方は手にとってみていただければと思います。

[北村 智]

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