2018/01/15

【学問のミカタ】今を、少し遠くから眺めてみよう:自己採点中のあなたへ



こんにちは。メディア史、ジャーナリズム論担当の松永です。
センター試験が終わり一夜が明けました。受験生の皆さん、二日間お疲れさまでした。息つく間もなく、自己採点、出願、各試験の勉強が始まり、心休まらない日々をお送りかと思います。

私もかつては受験生。センターがうまくいった人はその喜びを、失敗した人はその悔しさを表に出さぬよう押し殺した(しかし、しばしば漏れてしまう)悲喜こもごもの教室で、「一人になりたい」と思いながら自己採点をした、寒い、冬の日のことを思い出します。しんしんと雪が降っていました。
センターの時期、九州ではいつも山茶花が見頃です。受験生の頃は気づかなかったけれど。

試験の点数というものは、とてもクリアです。(そして時にシビアです。)目が大きくなったり色白になったりして、ホンモノよりちょっと可愛く映るプリクラやカメラアプリとは違い、後から水増しすることはできません。結果はありのまま、数字で出てきます。まずはそれを受け入れる必要があり、皆さんはその只中にいらっしゃるというわけです。

しかし考えてみれば、現実社会の場合、この、ありのままを見る、ということがとても難しい。私たちの周りに溢れる情報は、自分自身の目で見て、耳で聞いて確認したもの(ホンモノ)よりも、メディアを介して入手するもの(プリクラ)の方が圧倒的に多いからです。週末のセンター試験「地理B」で、アニメキャラクター「ムーミン」の出身地を尋ねる問題が出題されたとネット上で話題になりました。言わずもがな、この問題を実際に試験場で目にした人はごくわずかでも、メディアで取り上げられSNSで拡散されることで「現実」となり、私たちの生きる環境を形成しているのです。

だとすれば、メディアのあり方を調べることは、私たちがどのように現実を見ているのかを知ることにもつながります。トケコミでは、メディアと社会、コミュニケーションについて、さまざまなアプローチで研究することができます。

Paul Gauguin. Where Do We Come from? What Are We? Where Are We Going?
1897-1898 © 2009 Museum of Fine Arts, Boston.

私の主たる担当科目は「現代メディア史」「比較メディア史」で、コミュニケーションの変容をメディアとの関係において講義しています。歴史に学ぶ、というと、何かしら現代に応用可能な教訓を得るものと捉えられがちですが(戦争の過ちを繰り返さない、など)、それだけではありません。私たちはどこから来て、どこへ行くのか。過去との連続性のなかで現在を理解し、未来について考える訓練もまた、重要な歴史からの学びだと思います。

昨年で創刊120周年を迎えた英字新聞the Japan Timesを研究して来た私自身、その出発点は「今」への疑問でした。なぜ日本には、「英語でJAPANを発信する」という趣旨の学習教材が(他国と比較して)多いのだろう。相互理解というより、一方的に語る「発信」に力点が置かれているような気がするし、その相手も、中身も、どこかステレオタイプ。こうしたコミュニケーション様式は、どのようにして形成されてきたのだろうと考えたとき、一つの起源として着目したのが、在留外国人に向けた「日本人による英字新聞」として1897年に発刊されたthe Japan Timesでした。

明治以来、the Japan Times記者には在留西洋人に日本を「正しく」説明したい、という理念が共有されてきたこと、それらの記事が日本人読者の教材となり、英語を使うときの規範として発展してきたことを確認しました。一方で、新聞の読者欄には「日本人」「西洋人」に留まらない多様な文化的背景を持った人々が投書し、議論を交わしていたことも発見し、英字新聞のようなメディアが、相互理解に向けたコミュニケーションの場として機能する可能性も見出しました。過去から現在を照らしてみれば、英語による発信が、古くて新しい課題であることがわかります。


193182日付 日本の作法、武道などの文化紹介記事の展示より
The Japan Times創刊120周年記念企画展「英字新聞が伝えた『日本』」日本新聞博物館 201712月)

私たちはしばしば、ある特定の枠組のなかで現実を見がちです。そしてその窮屈なものの見方に、知らずして捕らえられていることがあります。歴史に限らず、大学で学ぶ目的の一つは、その枠組を解体し、新しいものの見方を得ることにあるのではないでしょうか。学問は自由になるためにある、と私は考えます。センターで泣いた人も、笑った人も、きっとその道に通じる受験勉強を、今日からまた、頑張ってください!ご健闘をお祈りしています。

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