2014年3月12日水曜日

『ブックガイド』刊行1ヶ月記念 :文献出版年を分析する

コミュニケーション学部の柴内です。

 『コミュニケーション学がわかるブックガイド』には128点の文献が採用・解説されています。これらの文献がいつごろ発表・出版されたのかを調べると、そもそもコミュニケーションをめぐる議論、考察はいったいいつから盛り上がったのかわかるかもしれません。そこで1960年代までは10年ごと、1970年以降は1年ごとの刻みで、そこまでの累積数がどのように増えていくかのグラフを作りました。

 注:1910年代は文献なし、19世紀以前は全てまとめました。最古の文献はなんと『古今和歌集』(905年ころ以降に成立)です。また『ブックガイド』には一つだけ「資料集」として入っているものがあるのでそれは除き、全体の数は127点です。



 こうしてみると1960年代という10年間は、コミュニケーション研究が盛り上がった最初の節目の時期、のように思えます。1970年代以降は1年刻みで記録しているのでこのあと一見ゆるやかになっているように見えますが、70年代以降も同じペースで続きますので、これ以降がコミュニケーション研究の第一期なのだ、と言えるでしょう。

 この1960年代に出版された『ブックガイド』採用文献を一覧にすると、以下のようになります。
  • リースマン『孤独な群衆』(1961)
  • ゴッフマン『出会い』(1961)
  • ウィーナー『サイバネティックス』(1961)
  • ブーアスティン『幻影(イメジ)の時代』(1962)
  • マクルーハン『メディア論』(1964)
  • ポランニー『暗黙知の次元』(1966)
  • ホール『かくれた次元』(1966)

 このラインナップは、コミュニケーションやメディアを学ぶ人間だと、思わず居ずまいを正したくなるような並びです。いまなお無視できない重要な議論がずらりと並んでいます。この時代の学生だったらいったい……。

 この時期にはメディア環境も大きく変わりました。なんといってもテレビの登場は無視できません。アメリカでは、1950年代にテレビの世帯普及が急増し、1960年代にはさらにカラーテレビの時代へと入っていきます。日本でもテレビ受信機の普及のきっかけの一つといわれる「皇太子成婚パレード」は1959年のことです。新しいメディアの登場と、これらの「コミュニケーション学」の基礎となる本の刊行時期が重なるのは、当然のことに思えます。

 注:『ブックガイド』には取り上げていませんが、 メディアが人々にどのような影響を与えるかについて、当時主流の「限定効果論」の到達点とも呼ばれるクラッパーの著作もこの時期に出版されています(Klapper, J. T. (1960). The effects of mass communication. New York: Free Press. NHK放送学研究室(訳)(1966). 『マス・コミュニケーションの効果』日本放送出版協会)。また、ソーシャルキャピタル論の代表作であるパットナム『孤独なボウリング』では、この時期以降、テレビの影響もあって人々のきずなが弱体化していったのではないかとされています(『ブックガイド』→p170)。


 これ以降も、コミュニケーション学の重要な著作が次々と出版されますが、次の節目として、あえて色をつけた1995年を見てみましょう。ここまでの線の伸び方と、これ以降、あるいは2000年頃を境とした時期では、出版数の増加の角度が少し違い急になってくるように思います。

 1995年は「インターネット元年」のようにも呼ばれる年で、Windows95の発売とあわせ、一般の人がインターネットを利用することが容易になった時期として知られています。阪神淡路大震災もありましたが、この時も情報通信や、人々のきずなの重要性、あるいはネットワークやボランティアのような言葉が注目されました。そして、この年は、日本で初めての「コミュニケーション学部」、東京経済大学コミュニケーション学部が設置されたときでもあります。2000年前後には、iモード等の携帯電話によるインターネット接続サービスや、カメラ付き携帯電話が登場し、携帯電話契約数が加入固定電話契約数を上回り、人々のコミュニケーション環境は大きく変わりました。

 グラフを見ると、一段の伸びが2007年以降にもあるような気もしますが、だいたいこのあたりから、動画サイトやソーシャルメディアなど、現在も欠かせないさまざまなサービスが始まっています。

 実際には『ブックガイド』採用書を選ぶときには、なるべく最近の手に入りやすいもの、ということを留意しましたので、近年になってカーブが急になるのは当然ではあります。それでも、ここまでに説明したコミュニケーションやメディアの変化を考えると、それぞれの本の出版にはその時代の背景も読み取れるのではないでしょうか。いつ、何が起こったときに出た本なのか、そんなことを考えながら本を読むことも面白いかと思います。