2016/11/29

広島から東京、そして広島からメキシコへ

んにちは。

ミュニケーション学部卒業生の佐々木です。昨年末から自動車関係の仕事でメキシコに赴任しており、この場をお借りしてメキシコでの日常や興味を持ったことを書いていこうと思います。

めに私自身のことを紹介させていただきます。私は広島出身で東経大への進学のため上京してきました。高校時代に端艇(ボート)競技をしており、東経大にはスポーツ推薦で入学しました。

時は大学進学に特に強いこだわりはなかったのですが、インターハイや国体に出場する中で日本のトップクラスで戦ってみたいという思いが強まり、東経大の端艇部から声をかけていただいたことで進学を決めました。

くつかの大学から声をかけてもらったのですが、各大学の詳細を調べる中でコミュニケーション学部の案内に目が留まり、東経大に入学することを決めました。私がコミ部に興味を持ったのは下記の2つの理由からです。

・もともとメディアや社会学に興味を持っていた
・せっかく大学に行くなら実社会で学べないことを深く知りたかった

時、大学進学への意欲も薄く、特に志望分野もなかった私にとってコミ部の紹介は大変興味深く、いかにも大学らしい印象がありました。実際に入学してみてその印象は間違っておらず、私自身にとてもフィットしていると感じました。

ポーツ推薦で入学したからには部活動で結果を残すことも大切な目標のひとつでしたが、大学での魅力的な講師・講義を純粋に楽しむことができたのもこの学部を選んだからだと実感しています。

活動の方は練習施設を備えた合宿所で暮らし、毎朝4時半に起床して練習・大学に行って講義・夕方からまた練習し、午後10時に消灯という生活でした。やはり生活の中心にはボートがあり、他の学生よりも時間の余裕は少なかったと思います。しかしながら、その合間に通う大学の講義はとても興味深く、より濃く楽しみ学ぶことができました。

は時には限られた時間の中で学ぶと効率が上がる、ということを身を持って学ぶことができたと思っています。目標だったインカレでのメダル獲得はなりませんでしたが、精一杯自分のベストを尽くせたと思っています。

4年時には主将をまかされ、部員をまとめる中で力不足ながらも今につながる多くを学ぶことができました。そういった意味で私の4年間は非常に充実したものでした。辛いことも多かったのですが、今ではふとした時にとても懐かしい思い出として蘇ってくることがあります。目に見えない物ではありますが、私にとっては大切な財産です。

の後、もともと自動車が大好きだったこと、子供の頃から海外勤務が夢だったこともあり、地元広島の自動車部品メーカーに就職しました。

職の際には端艇部での活動やコミ部で学んでいることを最大限アピールし、会社側に興味を持ってもらうことができました。製造業のため採用枠のほとんどは理系で、応募者の中で文系はわずか4名ほどでした。面接ではコミュニケーション学部という学部名から(ほとんどの方はコミュニケーション学部では何を学ぶのか、何を教えているのかご存知ないためか)、どういったことを学んでいるのか興味を持って質問されました。私なりのコミュニケーション学部の説明をし、私が何を学んでいるか、どう意欲を持って楽しんでいるかを説明しました。その結果採用してもらうことができたので、少なからずコミュニケーション学部のことが伝わったものと思っています。

の後4年ほど本社に勤務し、昨年末にメキシコ工場への出向を打診されました。出向を推薦いただいた方からうかがった選考理由は、英語力・積極性・コミュニケーション能力でした。ここで「コミュニケーション能力」と言われたとき、本当にうれしかった記憶があります。その方がどういった意味でコミュニケーション能力と言われたのかはさまざまな憶測ができますが、私にとっては何よりうれしい一言でした。

の方から見ればただの転勤かもしれませんが、私にとっては子供の頃からの夢を叶えた大切な瞬間でした。この経験から皆さんにお伝えしたいことが二つあります。

つ目は、何か夢があって実現したいのであれば、それを公言し、周りの人にアピールすることです(もちろん努力も必要ですが、それはあえて言うことではないですね)

の場合、入社試験の時から海外勤務の夢をアピールしていましたし、一度海外工場へ長期出張(今思えば、それが「テスト」だったのかもしれません)した際には全力で業務に当たり、周りへのアピールを心がけました。与えられた環境に腐らず、努力し、チャンスを与えられた際は全力で取り組む。これは見方を変えれば、周りからの期待に応える、ということかもしれません。

つ目は何事にも常に積極的に、笑顔で前向きに取り組むことです。

述の海外工場への出張が終わる時、その工場の方から「お前は何事にも嫌な顔をせずに一生懸命やるところがいい」と言っていただきました。これは今でも心にしっかりと留めています。

 
は毎日が新鮮で楽しく、必死で取り組んでいただけなのですが、笑顔で前向きに取り組んでいたと感じていただけたようです。後で知ったのですが、私の今回の海外出向を推薦してくれたメンバーの一人がこの方でした。

事にも前向きに取り組む。これはよく言われることですが、案外難しいのかもしれません。しかし、そうやって物事に取り組むことは、周りにとっても(いま高校生の)皆さんにとっても予想以上の良い効果をもたらします。どんなに知識があって真面目に取り組んでいても、仕事にあたる姿勢が消極的だと必ず結果に影響が出ますし、周りに良い影響を与えることはできないと思います。今から物事への取り組み方の癖をつけていけば、将来の皆さんにとって大きな武器になると思います。

回からは、ここ、危険だけど陽気、いい加減だけど思いやりのある国、メキシコについて書きたいと思います。

Hasta luego!!アスタ・ルエゴ…スペイン語で「またね!」)



先日メールを送ってくれた彼からのたよりです(^-^)

2016/11/21

『コミュニケーション科学』44号


 コミュニケーション学部の紀要『コミュニケーション科学』44号ができあがりました。

 本号には、昨年暮れに開催した学部20周年記念シンポジウム*の全記録が掲載されています(*「学報」 8, 9面)

 ドミニク・チェンさん、藤村厚夫さん、荻野NAO之さん、各氏の講演に加え、そのあとのディスカッション(桜井哲夫、佐々木裕一、深山直子)も採録しました。参加できなかった人はもちろん、当日出席された人も確認がてらお読みいただければ、幸いです。

 「44号」をクリックすると、号全体(もくじ)が、論文タイトルをクリックすると、本文PDFに飛びます。

『コミュニケーション科学』44号

 もくじ
  1. 類例の少ない組織形態(株式会社,NPO 法人以外)の事業者が運営するコミュニティ放送の実態と背景 山田晴通  「日本におけるコミュニティ放送は、1992年1月の放送法施行規則の一部改正によって制度化され、同年12月に函館市で函館山ロープウェイ株式会社が開設した「FMいるか」が最初の開局事例となった」。
  2. 現代アメリカにおける広報エージェントの概念形成 河西  仁  「世界最大の工業国となり、世界の新たなリーダーとして国際社会での存在感を増しつつあった20世紀初頭のアメリカでは、急速な工業化と経済市場の発展や移民の大量流入と共に……」
  3. 矢印はすすり泣いている : 記号の楽しみ2 川浦康至  「大学への通学路、通称『遅刻坂』の入口にかつて大きな看板があった」。
  4. 地域住民の防災に関する意識調査(国分寺市東元町2015年) 東京経済大学コミュニケーション学部社会調査グループ  「以下に報告する内容は、山田晴通が授業を担当した2015年度の「社会調査実習」において、実習として実施された社会調査の成果です」。
  5. 「コミュニケーションの現在とこれから」東京経済大学コミュニケーション学部20周年記念シンポジウム記録 
  6. コミュニケーション学部報(2015 年度)
  7. 2015年度コミュニケーション学部卒業制作・卒業論文


2016/11/15

オーストラリアだより(その1)

前列右端が私です

 こんにちは、グロキャリでオーストラリアにいるコミュニケーション学部2年、数馬です。

 2回に分けて、現地でのようすをご報告します。

 みなさんは『GCP(グローバルキャリアプログラム)(以下、グロキャリ)についてどれだけご存知ですか?

 もちろん詳しく知っている人もいると思いますが、この質問を周りの人に聞くと名前だけは知っている、と答える人が大半です。

 グロキャリについて簡単に説明すると、語学研修とインターンシップの両方を経験できる、一粒で二度美味しい東経大独自の制度です。チチェスター大学への留学プログラムなどと同じかというと、それとも違います。

 グロキャリは、東経大が現地での学費を負担してくれます。そこが他の留学プログラムと違うところであり、魅力の一つです。これはコミュニケーション学部に限ったことではありませんが、「頑張りたい」「挑戦したい」という学生に必ず手を貸してくれる制度、設備、そして先生方がいらっしゃって、頑張った分、そして挑戦した分、自分の自信に繋げてくれるのが東京経済大学のいいところだと思っています。

 私は昨年度、グロキャリに所属するための選考で運良く受かり、今年の8月からオーストラリアのシドニーにグロキャリ生として滞在しています。

 8月上旬から中旬、11月中旬から12月上旬にかけてシドニー大学、9月上旬から11月上旬にかけてニューサウスウェールズ大学またはマッコーリー大学で就学し、12月上旬から帰国前にかけて現地企業でインターンシップをする予定です。

 インターンシップ先は学生によりさまざまですが、観光関係、語学学校、NPOと多様な職種から選べます。

 4ヶ月間半という長く感じられる期間をオーストラリアで過ごすわけですが、光陰矢のごとしとはよく言ったもので、もう、その期間の半分以上が既に終わってしまいました。帰国後の成果発表会に向け、オーストラリアでの研究分野を詰めているところです。

【オーストラリア滞在記】

シドニー大学のキャンパスにて

 シドニー大学、ニューサウスウェールズ大学ともにキャンパスの規模が日本の総合大学とは大違いです。

 学部ごとに研究棟、学習棟、図書館があり、各学部の学習に密着した施設や環境が整っています。

 シドニー大学のメインキャンパスには、ハリー・ポッターでも舞台になったオックスフォード大学を元に建築された建物が見られます。







 





 シドニーの街歩き

 オーストラリアには郷土料理、伝統料理といったものが特にありません。しかし、フィッシュアンドチップスやミートパイなど、ローカルの人たちに親しまれている食べ物はあります。

 シドニーにはおしゃれで美味しいカフェがたくさんあり、女の子たちの間ではカフェ巡りが盛んです。

 カフェにもいろいろな種類があり、飲み物(コーヒー、紅茶)や、ペーストリーにこだわっている所、カフェの雰囲気にこだわっている所など、1つ1つのカフェを楽しむことができます。

 シドニーに来たら是非訪れてほしい場所が、Fish Marketです。値段は少し張りますが、新鮮な魚介類が恋しくなった時にはおすすめです。

  「その2」は来月1日、お送りいたします。




2016/11/10

メキシコ発のメール

 先日、コミュニケーション学部の卒業生からメールが届きました。当学部のことにもふれてくれています。うれしくて、一部ご紹介します。

《第1信》

 東経大コミ部を2009年に卒業しました佐々木といいます。覚えていらっしゃるでしょうか?

 お忙しい中突然ご連絡してすみません。広島出身で端艇部に所属しておりました。

 1年の時に先生の講義を受講し、私のブログの発表をさせていただきました。

 私は今年初めよりメキシコに赴任しておりまして、実家から東経大の「学報(※卒業生に送られる冊子)が届き、懐かしく思い、ご連絡しました。

 私にとって海外で働くことは子供の頃からの夢でした。違う文化・言語の方々と関わって仕事をする中で、コミュニケーション学部で得た知識や見識を多く活かせていると実感しています。

 コミュニケーション学部のことを知らない人にはよく「就職に役立たない」と言われることがありますが、私という人間の一端を形作るかけがえのないものを得ることができました。

 就職に役立てるために大学に行く、という考え自体が不思議ですし、そうして通った大学はただの塾と同じと思っています。

 本当にコミュニケーション学部を選んでよかったと思う日々です。

 この機会にひとことお礼をお伝えしたいと思い、ご連絡しました。

 さらなるご活躍をお祈りしております。

《第2信》

 今の仕事はローカルスタッフへの業務指導とマネジメントが主ですので、スペイン語に四苦八苦しながら楽しくやっています。


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 メールにはInstagramへのリンクも張られていました。そこには、すてきなパートナーとの写真もあり、幸せそうな顔が大きく写っていました。

 ありがとう。

川浦康至

2016/11/01

【学問のミカタ】言葉

 「現代言語学」「英語学概論」を担当する中村嗣郎です。

 11月のテーマは「言葉」。

 言葉と聞くと、「ともだち」「花束」「涙」といった単語そのものを指すこともあるし、日本語、英語、中国語、フランス語といった個々の言語を指すこともあります。また「言葉」から、意味とかコミュニケーション、心といったものを連想する人もいることでしょう。

 今回は「言語」についてお話しします。具体的には、日本語の「ら抜き」言葉、英語の動詞の活用、言語の音、言語と人間、の4つを取り上げます。気になるトピックだけ読んでもらっても構いません。

 「ら抜き」言葉

 少し前、文化庁が平成27年度『国語に関する世論調査』の結果を発表しました。「食べることができる」を意味する表現として、「食べられる」とするか「食べれる」とするかという「ら抜き言葉」の問題に関して、ら抜き言葉が多数派になったという結果で、話題になりました。

 正確には、「今年は初日の出が見られた/見れた」と「早く出られる/出れる?」で、後者の「ら抜き言葉」を使うと答えた人が前者よりも多かったということでした。これは前回調査よりも増えていて、そうした変化は多くの人が予測したものです。今後ますます、ら抜き言葉が浸透していくことでしょう。

 書き言葉では、ら抜き言葉にまだ抵抗があるようです。ら抜き言葉が話されているのにテロップは違っている例が観察されます。「やっと食べれました」と言っているのに、「やっと食べられました」と書かれてあるといった具合です。

 ら抜き言葉は、ある観点から見ると合理的です。

 1つには、ら抜き言葉「食べれる」を使わず「食べられる」を使用した場合、それが可能の意味なのか、受身の意味なのか(例「ピノキオは鯨に食べられた」)、尊敬の意味なのか(例「もう食べられましたか? お皿をお下げしてよろしいですか?」。「召し上がる」「お食べになる」でOKです)、使われる状況を考えないと意味がはっきりしません。その点、「食べれる」を使うと、可能の意味に絞られるという利点があります。

 さらに、動詞の活用という点から見て、文法体系が簡潔になります。日本語の動詞は大きく2つに分かれますが、これは命令形を見ると明らかです。

「食べる」「起きる」
 tabe-ru oki-ru
 tabe-ro oki-ro
 tabe-nai oki-nai

「飲む」「眠る」
 nom-u nemur-u
 nom-e nemur-e
 nom-anai nemur-anai

 命令形が「食べろ」「起きろ」のように「ろ」で終わる動詞と、「飲め」「眠れ」のようにエ段の音で終わる動詞があります。それぞれ活用させると「食べる」「起きる」は変わらない部分が、tabe-, oki- と母音で終わっています。それに対して「飲む」「眠る」は nom-, nemur- と、子音で終わっています。ここから前者を母音動詞、後者を子音動詞と呼ぶことがあります。ら抜き言葉は基本的に母音動詞であることが条件です。

 ら抜き言葉を使うと活用の体系がどう簡潔になるのでしょうか。

 命令形の場合、母音動詞には -ro をつけ、子音動詞には -e をつけるという風に別々に考える必要があります。しかし、他の活用については、日本語の音が「子音+母音」を基調としていることを考慮すると、2種類の動詞を区別する必要がなくなります。

 辞書で引く形(基本形)は、-ru をつけると考えるだけで説明できます。nom-ru, nemur-ru になってしまうのですが、日本語では子音の連続を嫌うために「2つ目の子音を消す」と考えると、nom-u, nemur-u という形が導けます。否定の場合は -anai がつくと考え、tabe-anai, oki-anai は母音が連続するので「2つ目の母音を消す」と考えると、tabe-nai, oki-nai が導けます。

 それでは、ら抜き言葉はどうなるでしょうか。従来は「食べられる」「起きられる」が主流でした。

 tabe-rare-ru oki-rare-ru

 これを子音動詞の可能形と比べて見ましょう。

 nom-e-ru nemur-e-ru

 最後の -ru は上で見たものなので、母音動詞と子音動詞の対立は、-rare- と -e- になります。この2つについて共通した形を想定して一括して説明することは無理です。それに対して、ら抜き言葉だとどうなるでしょうか。

 tabe-re-ru oki-re-ru
 nom-e-ru nemur-e-ru

 可能をあらわす形として-reを仮定すると、tabe-re, oki-re は問題ありません。加えて、nom-re, nemur-re は子音が連続するため2つ目の子音を消して nom-e, nemur-e となると予測できます。このように、ら抜き言葉は活用の体系をスッキリとしたものに変えていると考えることができます。

 言語はあたかも生き物であるかのように変化する性質をもっています。

 ら抜き言葉に似たものとしては、「レタス(れ足す)」言葉、「さ入れ」言葉と呼ばれる動詞活用も観察されています。

 英語の動詞の活用

 動詞の活用というと、不規則動詞を暗記させられた記憶がよみがえるかもしれません。take – took – taken, buy – bought – bought, come – came – come, put – put – put, go – went – gone を必死で覚えた人もいるでしょう。では、英語の活用は不変なのでしょうか。

 例えば、neak(こっそり入る)の過去形は規則的な sneaked とされますが、実際には snuck を使う人もいます。このニュース記事の見出しでは、標準的な sneaked が使われていますが、実際の発話(第8段落目の引用)には snuckが登場します。

 英語の動詞の活用も必ずしも不変ではなく、方言や個人差が存在します。

 get の過去分詞として、got よりも gotten を好む地域や人が存在します。実際、標準的なdrink – drank – drunk ではなく、drink – drunk – drunk とする地域もあります。同様に、標準的な drag – dragged – dragged の代わりに、drag – drug – drug、標準的な see – saw – seen の代わりに、see – seen – seen、標準的な do – did – done の代わりに、do – done – done を使用する地域や人が存在します。

 外国語として英語を学ぶ場合、標準的なパターンを身につけておくのが無難でしょう。もちろん、特定の地域で暮らしたりする場合は、特別なパターンを覚えておくといいのかもしれませんが、わざわざ一部の地域や人にしか通じない表現を覚えることもないでしょう。現実問題として、イギリス英語とアメリカ英語はずいぶんと違うところもありますから、ある段階に達したら、いろいろな英語を意識するとよいと思います。

 言語の音−−「眼」でなく「口」を見て話しなさい

 人間が使う自然言語には、音声を利用する「音声言語」と、手の動きや顔の表情などを利用する「非言語」があります。

 音声言語は音を利用すると書きました。では私たちは音声言語を使うとき、純粋に音を聞いているのでしょうか。

 面白い実験がずっと昔におこなわれ、興味深いことがわかりました。この動画で私たちも体感できます。英語のナレーションですが、要点は女性が何と言っているかというものです。具体的には、バなのか、ファなのか、ダなのか、ガなのか、画面を見ながら自分で聞いてみてください。

 実は、上の動画では口の形が実際の音の口の形ではありません。ちょっとした技術でそうした合成ができることは想像できますよね。

 発声の仕方と音声の関係を見ると、例えばバ行、パ行、マ行は、くちびるを閉じたまま言うことはできません(腹話術師のいっこく堂は例外)

 実験結果として報告されたのは、口の形という視覚的情報が加わると実際の音と違った音が聞こえるということでした。現実にはそうした状況は起こりませんから、これが意味することは、音声という聴覚的情報を認識するときに視覚的情報を利用しているということでした。

 この現象は「マガーク効果」と呼ばれます。マガーク効果は英米人には顕著ですが、不思議なことに、日本人にはそれほど見られません(動画はバの音をガの口の構えで流したものですが、ファやダに聞こえます。それがマガーク効果です)

 最近、そのことが科学的に厳密な形で裏づけられたとの研究報告がありました。「耳を澄ませて声を『聴く』日本人」です。言語の音声を聞くという極めて基本的な行為が言語的、文化的な影響を受けて異なっているとするならばそれは驚きですね。

 言語を使うヒト

 人間、すなわちヒトという種は、言語を使用するという点で他の動物とは異なっています。それでは、ヒトのどのような能力(特性)が言語を可能にするのでしょうか。多くの研究者がさまざまな可能性を示唆しています。模倣(人まね)、ひとりでなく一緒に見ること(指差し)、他者理解(共感)が、例えば、挙げられます。

 チンパンジー「アイ」の研究で知られる松沢哲郎氏は、ヒトがもつ独特な特徴の一つとして「教える」ことを挙げています。ヒトはすべての点において優れているわけではありません。松沢氏の講演録「想像するちから:チンパンジーが教えてくれた人間の心」にある動画7を見てください。アイの息子「アユム」の記憶力に勝つ自信のある人はいるでしょうか?

 ヒトの言語を本質的に理解するには、人間とは何か、も見ていく必要があります。そのためには人間以外の動物についても知る必要があるし、生物そのものに関する知識も重要になります。

 最後に問題です。

 目の見えない人は自転車に乗って自由に動き回れるでしょうか。険しい岩山を登ることはできるでしょうか。答えはイエス。これを見てください。

 ヒトがもつ可能性は私たちの想像を超えているのかもしれません。

 それでは。Ta-ta.