2019/08/22

志望校選択の、その先に

 甲子園が終わると、夏の終わりを感じます。
 皆さん、今年はどんな夏をお過ごしでしたか。


国分寺キャンパスの夕暮れ。

 今回の記事では少し過去にさかのぼり、志望校選択に悩む高校生が一度ならず問われるであろう、大学卒業後の進路の話に触れたいと思います。
 

 去る6月8日。初夏とは思えない、涼しげな海風の吹くビックサイトに赴いた五人のトケコム教員は、大学進学イベント「夢ナビ」に参加してまいりました。



参道を歩む巡礼者の如くビッグサイトを目指す高校生たち。
来場者は3万人を超えたという。


 気になる学問の体系やカリキュラム、進路などについて直接教員に相談できる「学びステーション」にて、わたしたちは「メディア学・情報社会学」を担当。100名以上の高校生と接し、彼・彼女らの具体的な悩みや希望、将来の夢について直接聞けたことは、大学教育を担う私たちにとっても大きな収穫でした。ご来場くださった高校生のみなさん、ありがとうございました。



午前中は比較的余裕。午後は大繁盛で写真を撮る余裕もなく…



 さて、そこで多くの高校生からあがった質問のひとつは、卒業後の進路に関するものでした。「メディア学を学んだ人は、どんな仕事に就くんですか?」。高校訪問やオープンキャンパスなどの進学イベントで頻出の質問です。

 相談者の志向に応じてそれぞれ解答したものの、トケコム卒業生の就職先リストを眺めてもらえればわかるように、「メディア学を学んだ人は、様々な職業に就き、社会で幅広く活躍しています」。もはや、メディアに関係ない仕事などほとんどないからです。

 もちろん、映像制作会社や広告代理店など、みなさんが想像しやすいメディア企業に就職する学生さんも一定数いて、近年では航空業界や観光業への内定者も目立つようになってきました。とはいえ、こうした仕事をするのに大学でメディア学を修めることが必須ではないし、一見メディアとは関係のない会社に就職したり、一見メディアとは程遠い仕事をしていたりする学生さんも多数です。高校生が知りたいのは、この、像を結びにくい後者のサンプルではないかと感じました。

 そこで思い出したのが、先日研究室を訪ねてくれたゼミの卒業生(2017年3月卒)Kさん。人材サービス会社で法人営業(求人雑誌に広告を載せませんか?という営業)を担当しています。本人曰く、営業は「天職でした」。求人広告契約数、採用実績などが評価され、新卒一年目には「新人賞」を受賞するなど目覚ましく活躍している様子。とても嬉しい報告でした。



 国分寺駅前の殿ヶ谷戸庭園で待ち合わせ、
研究室でお茶を飲みました。


 嬉しさついでに、どのような経緯で今の会社に勤めることになったのか、仕事をする上で大学での学びが活きることがあるかなどを聞いてみました。本人の承諾を得て、ご紹介します。

松永:Kさんは学生時代から旅行が大好きで、卒論のテーマも「民泊」でした。元々航空会社への就職を希望していたよね。どうして人材サービス業に?

Kさん:2、3年生の頃は特定の航空会社に就職することしか頭になくて、それがうまくいかなかったとき、一旦真っ白になりました。航空会社のこと以外なんにも知らなかったのでとりあえず、世の中にはどんな会社があるんだろうと調べだしたんです。そしたら、面白くなってしまって。こんなにおもしろい会社がいっぱいあるんだ。これは、一社に絞れないな。だったら、いろんな会社と関わる仕事をしてみたいなと。そこで、いま所属している人材サービス会社にたどり着き、縁あって働くことになりました。いい働き手が欲しいと思っている企業さんと、いいところで働きたいと思っている人とをつなげる仕事に、やり甲斐を感じています。

松永:(ゼミを担当していた)私がこんなことを聞くのは気がひけるけど、大学で学んだことが仕事に活きる、なんてことはありますか?

Kさん:いっぱいありますよ。ゼミと卒論は特に。3年生のころ、ゼミで都内のエスニック料理店と、そこで働く外国人労働者について調べたことがありましたよね。私それまで、身近にこれだけ沢山の外国人が生活していることはもちろん、彼らがどんな背景をもって、日本でどんな暮らしをしているかなんて、ずっと都内に住んでいるのに全く知らなかったんです。でも今、「求人」にまつわる仕事をしていて、営業先の方とお話していると、外国人労働者についての話題が出ることが少なくないんです。ゼミで勉強してて良かった〜と思っています。

Kさん:あとはやっぱり卒論です。私、学生時代は日本語も論理もかなりいい加減で、夏の卒論合宿では、ゼミ生にも先生にも突っ込まれまくってました。添削真っ赤だったし。あのときは、ほんと、すいませんでした(笑)。鍛えてもらったおかげで、少しはましになったかな。仕事をしていると、相手に筋道を立てて説明する、正確にわかりやすく内容を伝えることが、本当に求められるんですよね。エビデンスをもとに、読み手を納得させることを目指す2万字の卒論と格闘した経験が、今、短い会話のなかにも活きていると、常々感じています。


Kさんの代の卒論合宿。
奥多摩の宿を貸し切った缶詰合宿も今となっては良い思い出とか。


 Kさん、ありがとうございました。我田引水のような引用で甚だ恐縮ながら、ゼミと卒論が仕事に生かされている、という卒業生の語りは、我々教員にも、また現在卒論と格闘している在校生にとっても心強いものです。

 また、進学先のカリキュラムだけでなく、卒業生のその後についても気になっている進路選択中の高校生にとっても、Kさんのエピソードがなんらかのヒントになれば幸いです。他にもご紹介したい卒業生はたくさんいます。

 この週末には夏の後半のオープンキャンパスが予定されています。トケコムでどんなことが学べるのか。さらに、トケコムで学んだ先に、どんな未来が待っているのかを体験・想像しにいらっしゃいませんか。国分寺で、お待ちしています!

2019/08/10

対外経済貿易大学に行ってきました(山田晴通)


トケコム教員の山田晴通先生より、中国は北京郊外の大学で開講された集中講義のレポートが届きましたので、ご紹介します!

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 学生の皆さん、夏休みですね。ダラダラ過ごす夏も貴重な経験ですが、皆さんの青春のひと夏が、充実した、有意義なものになることを願っています。

 さて、少し時間が経ってしまいましたが、7月前半の2週間、大学から派遣される形で訪中し、東経大の協定校のひとつで、北京市郊外にある、対外経済貿易大学(以下、対貿大)で授業をしてきました。


大学の正門と、実際に授業をした建物「寧遠楼」。
この建物の3階の教室で授業をしました。

 東経大と対貿大の学術交流には半世紀ほどの歴史があり、いろいろな形で教員が相互に派遣され、授業をしてきました。ところが、どういうわけか、これまでコミュニケーション学部の教員が対貿大で教えるという例は少なく、特にここ十数年間は、対貿大との交流にコミュニケーション学部が関わる機会はないも同然でした。今回、私が出かけた背景には、この空白を少しでも埋めたいという気持ちがありました。

 中国の学事暦は、欧米諸国と同じように9月始まり、7月に終わります。対貿大の「暑期国際学校」、つまりサマースクールは、7月で終わる学年の最後に設けられた集中講義期間で、欧米を中心に各国から招かれた(中国にとっての)外国人教員が90科目ほどを開講し、また講演会なども開かれます。授業は全て英語でおこなわれます。学生は卒業までに一定数の単位をサマースクールで取得することが義務付けられています。

 私が担当した「Geography and History of English-speaking People」という授業の内容は、コミュニケーション学部で後期に開講している特別講義「英語圏諸国の歴史と地理」の英語版でした。日本人の私が、中国人の学生に、英語圏世界の歴史や地理を英語で授業する訳ですから、結構シュールな構図です。

 53人が登録したクラスは月曜日から木曜日までの週4日、毎日午後に2コマ連続で授業し、16回の授業で半期科目相当の2単位を与えるという仕組みです。受講していた53人は、一人が初日を欠席した以外は、全員が全てのコマを皆勤でした。初日以外は、論述式の小テストを毎日課したのですが、毎回みんな一生懸命に答案を書いてくれました。もちろん、日本と中国の社会の違い、文化の違いもありますし、学生気質や教える側の指導方法も大きく異なりますから、一概に日本の学生がダメだとは思いませんが、勉強に取り組む真摯な姿勢に接し、教員として心地よい緊張感を覚えたことは確かです。


招聘教員の任命式(実際には、授業が始まって3日目の夜)。
招聘教員を代表してスピーチしている米国の大学の先生



 受講者の中には、漢民族ではない、中国各地の少数民族出身の学生が何人もいました。また、漢民族であっても、地方出身者にとっては、大学内で普段使っている中国語の標準語(普通話)も母語ではありません。結果的に、既にいくつもの言語の運用能力をもっている学生たちがたくさんいました。

 学生たちは、実家が北京市内にある者も含め、授業期間中は全員が大学内の寮で生活しています。もちろん彼らは勉強一辺倒の生活をしている訳でもありません。雑談になれば、ファッションや音楽、日本のサブカルの話も出ますし、キャンパス内でも公然とチャラチャラしている男女のカップルもいます。今時の若者であることに変わりはないということです。

 今回は、私にとって初めての北京滞在でしたが、北京の中心部で買い物をしたのは1日だけで、ほかに観光らしいこともせず、ずっと対貿大周辺の郊外の住宅地区で過ごしていました。それでも、私にとっては多くの学びがありました。もし、私と同じように、ごく短期間だけでも、例えば、サマースクールの2週間だけでも、東経大の学生が対貿大のプログラムに参加し、学生同士の交流が可能になるようなことがあれば、互いに良い刺激を与え合うことが、きっとできると思います。さて、どういう形でなら実現に近づけるでしょうか。