2016/06/25

身体表現ワークショップ「Musicking / ミュージッキング」


 コミュニケーション学部教員の池宮です。

 本学部開講の身体表現ワークショップ「Musicking / ミュージッキング」をご紹介します。

 音楽は心と身体を触発し、心と身体の表現をうながし、人と人とのコミュニケーションを産み出す人類普遍の身体表現です。このワークショップでは、2時限連続で音楽三昧の時を過ごし、音楽を実践します。ミュージシャンの生の歌と演奏をふんだんに聴きながら、ミュージシャンの指導とサポートのもとで受講生も歌い演奏できる類まれなワークショップです。

 ワークショップを主導するゲスト講師は、現役バリバリのゴスペル・ソウルシンガーであると同時に、数多くのゴスペルクワイヤを育て上げ、プロシンガーをも指導なさる森崎ベラさんです。キーボードをサポートするのはゲストミュージシャンの深沢葉子さん。
 ほかにも第一線で活躍するプロミュージシャンがゲストとして数多く参加してくれます。今期のゲストは以下の各氏です。町田謙介さん、吉森信さん、小安田憲司さん、青山ハルヒロさん、藤井康一さん、持田孝嗣さん。

 今年の受講生たちも歌う気満々。いくつものグループが結成され、ソロで歌いたい者も名乗りをあげ、皆それぞれ学期末を締めくくるワークショップ・ライブに向けて楽曲の練習に励んでいます。森崎さんの提案曲、学生の希望曲を合わせると十数曲にもなりますが、どれも選りすぐりの英語の名曲です。英語歌詞の発音指導もあり、とても英語の勉強になります。

 最近のワークショップの様子(下記 (1)、(2)、(3))をご紹介します。こちらの動画(15分)をご覧ください。

 (1) ゲストミュージシャンは町田謙介さん。曲目はゴスペルの “Amen” 。町田さんの歌とギターに森崎さんのコーラス、深澤さんのキーボードが加わった素晴らしい演奏です。

 (2) ゲストミュージシャンはソウルシンガーの青山ハルヒロさん。青山さんと森崎さんのデュオで、Jimmy Cliff(ジャマイカのシンガー)の名曲 “Many Rivers To Cross” を歌う予定でしたが、急遽、受講生たちもコーラスで参加してもらおうということになりました。
 森崎さんがコーラスを指導すること20分。その的確な指導には舌を巻きます。森崎さんの歌声が学生コーラスをグイグイ引っぱってゆきます。
 そして本番。青山さん、森崎さんのボーカルと受講生のコーラスが一体となり、素晴らしい “Many Rivers To Cross” が完成。ごく短い練習でコーラスを覚えてしまう学生たちの柔軟性と音楽性に、森崎さんも感心しきり。年配者のコーラスでは、なかなかこうはいかないそうです。

 (3) 動画の後半は、グループやソロで歌う学生たちの練習風景です。森崎さんの的確なアドバイスで、音楽を構成・表現する力が見違えるほど豊かになります。

2016/06/19

【学問のミカタ】「乗り物」をデザインする力

こんにちは、佐々木裕一です。どういうわけか今月2度目の登場です。

「乗り物」と言われると、友人と一緒に紙の時刻表片手に国鉄で旅していた少年時代を思い出します。列車を写真に収める趣味はなく、いかに列車をうまく乗り継いで複数の場所を回るかというパズルを解く感覚で計画を立てるのが好きでした。宿泊するのがたいてい安ユースホステルだったので、この日はここまで行かないといけないという制約がそういう趣味を育んだのかもしれません。 

さて、そんな私が「乗り物」という言葉を改めて意識したのは、広告会社の1年生社員としてキャンペーン計画を立てるようになった時のことでした。自分なりに全体予算をテレビや雑誌に振り分けて考えている時に先輩にこう言われたのです。「ビークルは?」。

告白すると、私はこの時「ビークル」の意味がわからなかったのですが、それは雑誌名を意味していました。つまり、ビークル=Vehicle=乗り物だったのです。情報を乗せる「乗り物」というわけです。広告やマーケティングの世界では、テレビや雑誌やインターネットといった次元での分類は「メディア」、それよりも具体的な「Seventeen」「non-no」あるいは「週刊文春」という次元での分類を「ビークル」と言います。

コミュニケーション学でも、「乗り物」であるメディアとそれに乗るメッセージを別に考えます。と同時に、マーシャル・マクルーハンというメディア学者は「メディアはメッセージである」と言いました。つまりメディア自身が何らかの意味を持つメッセージを発しているという考え方です。テレビというメディアで発信すること自体が意味を持つということです。

デザインを勉強する人は必ずお目にかかかるジェームズ・ギブソンという心理学者は「アフォーダンス」という考え方を唱えました。彼は、私たちが椅子に座る時には、椅子という形を持ったものが私たちに座ることを促している面があると考えました。環境が行動を促すという考え方です。みなさんが普段使っているスマホにアフォーダンスの考え方を当てはめれば、その小さい画面によって私たちは長い文章を書かないように、あるいはスタンプを使うように促されていると考えることができます。

この椅子は座ることを促して(アフォードして)いますか?


話を国鉄に戻すと、その時代、駅にむやみに広告を表示するのは御法度で、乗客に対するわかりやすい案内が何よりも優先されていました。1987年に民営化された後、駅の階段や電車の側面がメッセージの「乗り物」になるのは1990年代半ば以降からですし、ホーム上にしゃれたお店ができるのは2000年代から、「乗り物の中の乗り物」であるドア上広告に電子スクリーンが使われるようになるのは2010年代からです。

スマホアプリの画面にも様々なデザインがありますが、デザイナーは、どのようにすればユーザーが使いやすいかと、いかに脇に表示される広告も目にしてもらえるかの狭間で悩んでいます。最近驚かされたのはパナソニックが自社ウェブサイトで他社向けに広告の販売を始めるというニュースです。広告主と言われる人たちが「乗り物」をデザインして広告を売る側にも回る時代となったわけです。 

このように新しい「乗り物」をデザインする活動は、ここ10年ほどで驚くほど領域を広げています。これは「乗り物」が多様化しているからに他なりません。そして、であるからこそ、私たち利用者も「乗り物」がどのような考えでデザインされ、提供されているのかを意識しないといけません。なぜならば、デザインした側の思惑通りに、そこにひたすら長居して時間を無駄にするわけにもいかないからです。

「乗り物」を少し拡大解釈すれば、SNSで誰とつながり誰からのメッセージを受け取るかという環境を作っていくことも、身近な「乗り物」のデザイン作業と言えるでしょう。これは豊かにそして知的に生きるための基本スキルになりつつあります。

つまり、誰にも「乗り物」のデザインする力が求められるのが今という時代なのです。

【学問のミカタ】
 今月の共通テーマは「乗り物」です。



2016/06/10

2015年度ベストティーチャー

コミュニケーション学部の北山聡です。

 このたび「学生が選ぶベストティーチャー」賞に選ばれ、うれしく思っています。

 講義やゼミは自分としても力を入れているので、それが学生に評価してもらえ、努力が空回りではないことを確認できたことが最大の収穫であり、最大の喜びです。

 特に「社会調査入門」の講義の評価ポイントが高かったそうなので、以下では、その講義で行っている工夫を紹介したいと思います。

 「社会調査入門」では、学生たちの社会調査そのものへの関心を高めることを意識しています。

 社会調査といっても学生には身近に感じられないようなので、たとえば、よく話題になるテレビ視聴率がどのように調べられているのか、NHKニュースで紹介される内閣支持率の調査方法など、実際に行われている調査の結果や手法を、講義の初めに10分から15分程度、長い場合には20分ほど使って紹介しています。

 ビデオリサーチ社のテレビ視聴率調査は、関東、関西、名古屋の3地域600世帯ずつに備え付けられたピープルメーターという装置で行われています。タレントの力を測り、番組の存続をも左右する視聴率は地域レベルでみると、わずか600世帯によって求められているわけです。調査の詳しい解説は、ビデオリサーチ社による紹介をご覧ください。

 実際にどのような手法が使われているかを知ることで、社会調査への関心が高まるのではと期待しています。

 調査の手法や結果を講義の最初に紹介することで、授業は2部構成になります。講義の90分は長いので、構成の工夫で、聞く側の集中力も維持しやすくなります。

 講義は学生が話を聞くだけになりがちなので、学生が主体的に関わるアクティブラーニング導入しています。

 講義では、毎回、授業内課題か宿題を課しています。

 講義内課題の簡単な例として、10問程度のアンケートに答えてもらい、その後解説を行うものや、次々とクエスチョンを出していき、答えてもらうクイズ形式での出題があります。調査のアイディアを学生が出していくワークを実施する回もあり、授業中ボンヤリしているわけにはいかないようにしています。

 実は、この授業、親しい学生から「1年生の時には一番面倒な講義だった」というコメントをもらうことがあります。

 毎回、ノートを取らないといけないし、授業内課題もあれば、レポートも書かされる。寝ていると起こされるし、その上テストは持ち込み不可、と座っているだけで時間が過ぎるのではない「面倒な授業」。

 それを、教え方の工夫の面において評価してくれた学生たちの見識に感謝しています。

 結局のところ、教えるという行為の効果は学ぶ側の意欲によって決まるように思います。学生たちの学ぶ意欲を、いくつかの工夫によって喚起できているとしたら、大変うれしいです。
「教える側の仕事の中心は、子供たちの関心を引き出し、学習意欲を高めることにある。その科目を好きにさせることが、そのための一番の近道。何時間授業したとしても、子供たちがその科目を嫌いになったら、授業の意味はなかったに等しい」。

 これは学生時代、講師として働いていた塾で言われた塾長の言葉です。

 私自身、大学で教えるようになった今も、これを自戒の言葉にしています。実は、塾長からは、もうひとつ教育に関する基本となる言葉をもらっています。これも、いつかご紹介しましょう。

 教員という仕事は、フィードバックをもらいにくい仕事です。いい講義をやろうと全力で努力し、それに成功したとしても、「先生、今日の講義はよかったです」と言ってくれる学生は限られます。失敗しても、面と向かって「先生の話はつまらない」と言ってくれる学生はまずいません。

 受講者数の増減は目安にはなりますが、講義への評価を必ずしも表しているとは言えません。どの単位要件に置かれているか(必修なのか選択なのか)、開設曜日時限、同じ時限の開講科目によって変わるからです。

 大学では、授業アンケートを実施して、学生からのフィードバックを生かす仕組みをつくっています。しかし、講義中に調査するため、講義に来ていない学生のことはわかりません。講義中にアンケートを配布し、回収するため、なんとなく本音を書きにくいという声も聞きます。

 個人的には、アンケート用紙の裏面にある講義に対するコメント欄(自由記述)に「今年大学で受けた授業で一番面白かった」といったコメントが毎年一つぐらいは書かれることを目標にしています。クイズ形式を取り入れたとき、そのコメント欄に「面白いやり方なので、もっとやって欲しい」と書いてくれた学生がいました。そのことですっかり気をよくして、ずっと続けています。

 今回初めて実施されたベストティーチャー賞、学生からのフィードバック回路として、今後も講義の改善に生かしていきたいと思います。


 北山先生、おめでとうございます。

 昨年度発足した「学生が選ぶベストティーチャー」賞は、以下の要領(抜粋)で実施しています。

1. 目的
 東京経済大学コミュニケーション学部は、以下の目的をはたすため、「東京経済大学コミュニケーション学部ベストティーチャー賞」を設ける。
(1)教育実践において学生から高い評価を得た学部教員を「ベストティーチャー」として表彰する。
(2)「ベストティーチャー」の高く評価された点や授業ノウハウを教員間で共有し、教育水準の向上を図る。

2. 賞の英文名称
 本賞の英文名称は、Best Teacher Awarded by Studentsとし、「BETAS(ベタス)を通称とする。

3. 賞の授与
 本賞は、学生アンケートの回答をもとに、以下の点について評価の高い教員を年に1回選出、表彰するものである。
(1)授業において、卓越した指導力で教育効果の高い授業を実践した者。
(2)教育方法の工夫又は改善に取り組み、顕著な教育成果をあげた者。
(3)その他、ベストティーチャー賞にふさわしいと認められる者。
 受賞対象者はコミュニケーション学部教員(コミュニケーション学部生が履修する授業担当者)とし、非常勤教員を含む。


2016/06/06

ラジオドラマ「1492年のマリア」


こんにちは、西垣です。

私が以前、講談社から刊行したスペインを舞台とする歴史小説『1492年のマリア』が、このたびNHK-FMで連続ラジオドラマ化されることになりました。

放送は6月27日から10日間です。詳細は下記をご覧ください。
http://www.nhk.or.jp/audio/html_se/se2016011.html

は14年前に刊行されましたが、現在は絶版品切れです。でも、講談社が6月下旬には電子書籍化し、再発売してくれるはずです。

離散の民の悲劇とコンピュータ(人工知能)とは深くつながっている、というのが私の主張です。小説は、この点をテーマにしているのです。よろしければ聴いてみてください。ユダヤ人たちをあれほど迫害しなかったら、核兵器は生まれなかったのではないでしょうか。


2016/06/02

スマホ向け動画広告のお話(ウェブ・マーケティング論ゲスト講義)

企業のマーケティング活動で、「ウェブを用いるのは当たり前」という感覚は若い人ほど強く持っているはずです。

NHK放送文化研究所による「日本人とテレビ・2015」調査(対象は16歳以上の男女)では、テレビを見る時間について「ほとんど、まったく見ない」「30分ぐらい」「1時間」と回答した人の合計が全体では24%。これに対して、16〜19歳では41%でした。逆にインターネット(メールを除く)を毎日利用する人は全体では38%。16〜19歳では65%でした。

テレビと言えば動画ですが、インターネットでの動画視聴も若い人の間では当たり前になってきていて、16〜19歳で「毎日のように」が35%、「週に3〜4日」が22%、「週に1〜2日」が28%でした。つまりこの層の85%が週に1回はインターネットで動画を見ていることになります。しかもこの数字は2010年の59%からも伸びていて、そこにはスマートフォンの普及が影響しています。

その一方で、2015年のスマートフォン広告の市場規模は3717億円で(サイバーエージェントとシード・プランニングの共同調査)、これは日本の広告費の6兆1710億円(電通調査)の6%にしか相当しません。そのうちスマートフォン向け動画広告は200億円なので、さらにその1/19近くというまだまだ小さい規模です。

このスマートフォン利用時間(頻度)と広告配分比のギャップについて、株式会社オープンエイトの代表取締役社長である高松雄康さんにゲスト講師として話してもらったのが、6月1日の「ウェブ・マーケティング論」でした。

授業風景(オープンエイト吉田さん撮影)

スマホ動画広告に予算が割かれない広告主側の理由として、ちょっと笑ってしまうようなものには、同じ人が見ているにもかかわらず「PCでの広告は大きいけど、(画面の小さい)スマホの広告は小さいから」といったものがありました。また、PCにしろスマホにしろ存在する「本当に広告が見られているのか問題」も解説してもらい、そこを保証するための閲覧時間という新しい指標の話も伺いました。

さらに「パソコンの場合はウェブブラウザでのサイト訪問履歴がわかるが、スマホの場合はそれがわかりにくい」という問題もあります。だからパソコンで旅先の宿を予約したら、その後しばらくホテルの広告が訪問先サイトの多くで表示されますが、スマホではこのようなことはほとんどありません。けれども、逆に言うと、今その人が訪れているサイト/アプリの内容に見合った広告しかスマホでは出せないことになります。

これはデメリットのように思えます。けれども面白かったのは、「動画という形式になると、人は面白いものあるいはコンテンツと関連の深いものを求めるようになる」という話でした。これは驚くべきことに、冒頭で紹介した若い人が遠ざかりつつあるテレビのCMの考え方に回帰しているわけです。テレビCMはあなたの番組視聴履歴に合わせて一人ずつに別のものが放送されているのではありませんから。

授業内レポートの課題は「どういう形または中身であればあなたはスマートフォン向け動画広告を見るか述べてください」というものでしたが、その回答内容に「おもしろさ」「流行り」を指摘するものが多く私も少しびっくりしました。

本日の授業内レポートのお題
(オープンエイト吉田さん撮影)

ウェブ・マーケティング論では、日々変わっているマーケティング業界の構造についても良く話すのですが、こういった新しい形や中身の広告を作ってみたい、売ってみたいという人は、「会社」ではなく「業界」に就職すると思って、オープンエイトのような新しい会社に入るという選択肢もあると思います。少し慎重さは必要ですが、十分検討に値する選択肢だと思います。

オープンエイト(ツイッターアカウント)