2016年2月6日土曜日

【学問のミカタ】バレンタインの悪影響?

メディア論/人間関係論(コミュニケーション心理学)担当の柴内です。 

ログでは交代で、毎月時節の話題を紹介しています。2月には節分もあるように思いますが、 バレンタインなのだそうです。ただ、ことさら人様に語れるような話もなく、なぜ今月担当なのだろうという気もするのですが、そこはこらえて、あえてバレンタインを学問的に考えてみましょう。

レンタインというと、街にはハートマークや贈り物があふれカラフルに彩られ、さぞかし恋人たちの愛は深まるのだろうというようにも思えます。アリゾナ州立大学のキャサリン・モースとスティーブン・ニューバーグはこのような見方にあえて挑戦しています。

Morse, K. A., & Neuberg, S. L. (2004). How do holidays influence relationship processes and outcomes? Examining the instigating and catalytic effects of Valentine's Day. Personal Relationships, 11, 509-527.

(英語の論文ですが、安心してください。日本語で説明しますよ) 

女たちは、恋愛関係にある大学生(交際期間平均は約18ヶ月)を対象として、バレンタインを挟んだ前後1週間ずつ、 合計2週間の間に関係がどのように変化しているかを、同様の他の時期(4月、9月、11月)と比較しました。その結果、バレンタイン前後の期間の破局率は、その他の時期の2.55倍高くなることを見出しました。

ぜそのようなことが起こるのか、相手への満足度やその変化、他の人間の方が比較でよく見えるようになるのか、などさまざまな要因を含めて詳しく検討しています。その結果、このような破局への変化はどのような人にも同じように起こるというより、むしろ調査開始の段階で関係の評価が中程度、あるいは低い者のうち、さらに関係の質の評価や相手への期待が下がりつつある人間の間で、破局が起こりやすかったことがわかりました。

係が悪化しているのであれば、別れるのも当たり前だろうと思うかもしれません。 でも、それならば一年中どの時期にも破局は起こりうるでしょう。とりわけバレンタインの期間には、他の期間と比べてそのようなことがずっと起こりやすくなるということが、ここでの発見です。このことをモースらは、バレンタインの持つ「触媒効果」(catalytic effects)と呼んでいます。 バレンタインそのものが何かをもたらす、というのではなく、悪化を促進させてしまう、 というような感じでしょうか。

係がうまくいっているのなら問題ありませんから、ともかくも一安心ですが、 ちょっと気になっているのなら要注意なのかもしれません。 

は、バレンタインの意味は、アメリカ(あるいはヨーロッパ)と日本では違います。日本では、基本的に女性から男性に好意を伝え、あるいは告白する日のようになっていますが(そして1ヶ月後に男性からの返礼の日があります)、 アメリカでは、男女問わず恋人たちが贈り物をしあい愛情を確認する日と捉えられています(なお、コミュニケーション学部の山田晴通先生が日本における「バレンタイン・チョコレート」の起源について論文を書かれています

本だと、この研究の知見に当てはまるのは、バレンタインよりむしろクリスマスの方になるでしょうか。そちらの方が「恋人たちの関係」に意識が向きやすく、また関係を考える機会になりやすいでしょうから。論文の著者たちは、祝祭日が人間関係に与える役割を、もっと広い視点から捉えることを主張していて、例えばアメリカでは、家族の絆が強調されやすい感謝祭(サンクスギビング)がどのような影響を果たすのか、などが考えられるとしています。 単にバレンタインにとどまらない議論もできそうです。

レンタインは、社会的に方向付けられて行われる「コミュニケーション」と言えるかもしれません。しかしそれがもたらす結果は、その意味する通り、ということもありませんでした。単純な、あるいは常識的なものの見方に対して、異なる視点から光を当てるというのは学問の面白さの一つで、この論文もそのようなものの一つかと思います。

* * *

て研究論文というと、何か偉い人が書いた大変なものと感じるかもしれません。しかし、ここで紹介した結果と議論は、実は大学の卒業論文に基づいていることが最初のページの注に記されています。それを書いた卒業生が1番目の著者、そして指導教授である高名な社会心理学者が2番目の共著者です。

ミュニケーション学部でも卒業論文や卒業制作が必修で、毎年多くの学生がそれぞれの力作に取り組んでいます。もちろん書く方も、そして教える方も大変なことではあるのですが、何かを成し遂げて卒業するという達成感を感じる学生も多く、またそれに触れる教員も頼もしい成長を実感できる機会となっています。先日も各ゼミからの優秀卒業論文・卒業制作発表会が行われ、その充実した内容に目を見張り、また誇らしい気持ちになりました。

ひ卒業論文・卒業制作で、自分自身にとって大事な問題に取り組んでほしいと思います。もしかすると、世界中の人がへぇ、と思う発見につながるかもしれません。

月3月は西垣通先生です。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

悪化しつつある人間関係のなかでの社会的なイベントは、破局のトリガーとなりうるのですね。
普段から良好な人間関係になるように注力するように心がけましょう。
しかし、コミュニケーションは受け手の状態や、文脈によって解釈は千差万別。
ウルグアイのムヒカ大統領のリオ会議のスピーチにあるように、(回りくどくてすみませんが)
「貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」
という考えを、人間関係にも意識すべきなのでしょうね。
無限の欲があれば、何をされても不満になってしまいます。
豊かな心と成熟した人格をもって人間関係に臨みたいですね。