2017/11/07

学問のミカタ 履歴書に書けないキャリアのお話




コミュニケーション学部の小山です。
私は「組織コミュニケーション論」のほかにも、「キャリアデザイン入門」や「キャリア開発論」などキャリアと名前のつく授業も担当しています。写真は、コミュニケーション学部1年生用の「キャリアと学びのプランシート」です。(「アカデミック・コンパス」は教務主任の佐々木先生がご担当。)


高校生の皆さんが「キャリア」と聞いて連想することは何でしょうか?もしかすると「就職」や「キャリアアップ」という言葉が頭に浮かんだかもしれません。こうしたキーワードは「外的キャリア」に関連するものです。外的キャリアとは、分かりやすく言うと「履歴書」に書けることです。履歴書は、就職活動や転職活動の時に応募先企業に提出する書類のことです。履歴書には、学歴、勤務先企業、役職、主な担当業務、保有資格などを記載します。ですから、高校生の皆さんにも、すでに外的キャリアがあるわけです(例えば、●●高校●●科入学、英検●級取得など)。

 でも、今日はこういった履歴書に書ける外的キャリア「ではない」ことを話します。それは「内的キャリア」と呼ばれるもので、皆さんの内面にあるキャリアのことです。内面にあることですから、履歴書に書くことはできません!(ちなみに、採用面接ではむしろ内的キャリアを説明することが求められます。)
 内的キャリアの研究領域は「キャリア心理学」と呼ばれる分野になります。そして、内的キャリアには大きく3つのモデルがあると言われています。(モデルは「考え方」くらいの意味合いで捉えてください)

 1つ目は「マッチングモデル」です(図1)。「自分の価値観・能力」と「仕事内容・必要能力」をマッチング(適合)させるという考え方です。Will(やりたいこと)、Can(できること)、Must(すべきこと)が重なるような仕事をしたいと思っている人がいるかもしれません。これは、マッチングモデルの考え方なのです。WillCanを「自分の価値観・能力」、Mustを「仕事内容・必要能力」と置き換えれば、WillCanMustをマッチングさせていることになりますよね。
 実は、マッチングモデルは、キャリア心理学研究のかなり初期に登場した考え方です(発端は1900年代初頭とも言われています)。したがって、仕事内容や仕事に必要な能力が大きく変化する現在、「自分の価値観・能力」と「仕事内容・必要能力」のマッチングを実現させることが容易ではないという問題点があります。

1 マッチングモデル

 2つ目は、「発達モデル」です。発達心理学がベースとなっている考え方です。人間の成長発達段階に応じて課題に順次直面し、その課題を乗り越えることで内的キャリアが発達するというものです。例えば、スーパーという研究者は、人生を5段階に分けて、それぞれの段階での成長課題を指摘しています。
 発達モデルは、マッチングモデルとは異なり、個人の成長が前提とされています。ただし、ここでの成長は、長い人生の中で数回生じる大きな成長のことです。もちろん、その視点は重要なのですが、これだけ仕事環境の変化が激しい現在では、もっと頻繁に自己成長・自己変容していくことが必要になります。

そこで登場したのが、3つ目のモデルです。様々な呼び方がありますが、ここでは「スパイラルモデル」と呼びたいと思います(図2)。仕事の変化、仕事で求められる能力の変化、たとえそれが予想外であったとしても、その変化を通じて自分の価値観や能力を拡張させていくという考え方です。スパイラルモデルは本人の努力はもちろん必要ですが、それだけでは限界もあります。そこで、支援者が必要となります。実は、国としても、20164月から「キャリアコンサルタント」を国家資格化して、キャリア支援の専門家を増やそうとしています。

図2 スパイラルモデル

ちょっと難しい話だったかもしれませんが、お伝えしたかったのは、「外的キャリアがすべてではない」ということです。変化の激しい現在では、企業合併や新規事業など、予想外の外的キャリアとなることは十分考えられます。ですが、スパイラルモデルの考え方によれば、与えられた環境において、内的キャリアを成長させることが可能です。激動の時代にキャリアを歩むことになる若い皆さんには、外的キャリアの変化に一喜一憂せず、どんな状況でも内的キャリアを成長させていってほしいと願っています。

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