2016年7月17日日曜日

【学問のミカタ】なつのいちにち

【学問のミカタ】地球というメディアの夏イベント

 毎週、川べりを走っていると、季節の巡りに敏感になる。みどりが濃くなって、遊歩道に草が伸び、やがて、まっさおな空に入道雲が現れる。夏がやってきたのだ。

 絵本『なつのいちにち(はた こうしろう著、偕成社刊)は、太陽のふりそそぐなか、クワガタを追いかける「ぼく」が主人公である。絵本を手にした人は、懐かしさを感じるだろう。暑い夏の思い出がそこにある。

 といっても、わたしの場合は、幼い頃、捕虫網をもって走ったことはない。夏休みの宿題は、植物採集でかんべんしてもらっていた。「虫を採ってしまうのはおかしい」といった理屈をこねていたはずだ。たんに虫にさわるのがこわかっただけだと思うが。

 いま、こうして川の道を走っていると、葉という葉は、夏の日差しで輝いている。ちょうどこの絵本のように。空の色も、コバルトブルーである。幼稚園の頃、神戸の須磨浦海岸で暮らしていたが、海の色は、この絵本の表紙のようにフレンチブルーであった。


はた こうしろう『なつのいちにち』偕成社

 大学に入った頃、突然、地下鉄の駅で、自分がラウル・デュフィの青が好きなのは、須磨浦海岸に育ったからではないかと思い当たった。夏休み、神戸に出かけていった。駅からの急坂を上りながら、振り向くと、確かにフレンチブルーの海があった。

 地球は公転している。23.4度の傾きをもって、北極側が太陽に向かうとき、北半球に夏が来る。大気は、赤道付近から上昇して極に下降する。そこに、地球の自転が加わる。大気の対流はこみいったものとなる。

 絵本『なつのいちにち』に描かれた夏の風景は、地球というメディアが、灼熱の太陽を借りて見せてくれる季節イベントのようにも思えてくる。俳句というものは、巨大な地球メディアのメッセージを受け止めることばのグラブなのかも知れない。季語を通して、わたしたちは、回転する地球と交感している。

 恐らく東京で小学校に入った頃だと思う。寝そべって、本を見ながら、パンをかじっていた。窓の外には、夏の空が広がっていて、「ああ、これ以上、何もいらない」というほど、幸せを感じたことを覚えている(ということは、やはり、クワガタを採りにいくよりも、好きな本といる方が好きな子だったのか)

 先日、広告論の授業で『なつのいちにち』を使ってみた。「夏が近づく頃、この絵本の駅貼りポスターが掲載されるとして、キャッチフレーズを考えよ」という課題であった。

 若い親向けのキャッチフレーズとしては、「子供は夏に育つ」「夏は知らぬところで息子を成長させる」「6歳の夏は1度だけ」「その一日は一生の思い出になる」といった「人生におけるひと夏」の得難さを語るものが多かった。一方、「ネットやテレビじゃわからないことを教えます」「デジタルじゃないよ アナログさ」「クーラーの下より、太陽の下に連れだそう」など、いまの時代を批評するコピーもあった。

 孫のいる祖父母向けコピーとしては、「あなたの夏を思い出す」「孫があなたと過ごせる夏をまっています」「孫に伝えたい、あの頃の夏休み」「孫と一緒の夏は、あと何回……」「虫かごに夏をつめこんで」などが優秀作品になった。「ひざのうえで心を育てる」というコピーは、絵本すべてで使えそうである。



 絵本は、小説以上に生きることの原型を教えてくれるのかも知れない。世間のしがらみとは無縁な、地球の上に登場して10年とたたない人々に、躍動するこの世界を感じさせる。『なつのいちにち』は、コバルトブルーの空のもと、ただ、それだけで、この地球の上にいることは素晴らしいと伝えているのだろう。
(関沢英彦)

【学問のミカタ】7月のテーマは「夏」
・経営学部 暑い季節の悩みは何ですか?
・コミュニケーション学部 なつのいちにち
・共通教育センター だめよ〜だめだめ、サンゴの移植でさんご礁は復活しないの
 来月は「会社」です。


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