2019/03/13

学問のミカタ 「コミュニケーション学」の海へ漕ぎだすために


コミュニケーション学部の光岡です。

このエッセイが公開される時期はもう3月も半ば。2019年度の大学入試も一段落し、高校3年生は新たなスタートに胸を躍らせ、高校12年生は、改めて進路を考えている時期かと思います。そこで今回の「学問のミカタ」では、今高校生、大学生が「コミュニケーション学ぶ意味」というテーマで進めたいと思います。

日本における「コミュニケーション学(部)」の二つの意味
 僕が働いている東京経済大学コミュニケーション学部(通称トケコム)は、1995年に日本で初めて「コミュニケーション学」を冠して創設されました。その歴史を振り返ると、イギリスの「Goldsmiths College, University of London」や、カナダの「Simon Fraser University」など英米圏のコミュニケーション学部を参考にしていたようです。両者はその最たるものですが、一般に英米圏おいて「コミュニケーション学(Communication Studies)」とは、例えばマスメディアの選挙報道が私たちの投票行動にいかに影響を与えているかや、通信機器が毎日持ち運べるガジェットになったことで日々の生活やビジネスがどう変わっていくのかといったテーマを扱う、社会科学(Social Sciences)の一領域だと考えられてきました。
 一方で日本では、「〇〇コミュニケーション学部」と言った場合には、社会科学に加えて、英語を中心とした外国語を基礎に、異文化について学ぶ人文学(Humanities)よりの学部が存在します。「異文化コミュニケーション学部」や「国際コミュニケーション学部」といった名称の学部がそうです。
 ですので、日本で「コミュニケーション学」を勉強してみたいと希望する際には、実際にはご自身が、マスメディアからスマートフォンにいたるメディアを介したコミュニケーションについて学びたいのか、むしろ言語能力を生かした対面コミュニケーションについて学びたいのかをじっくり考えて選択をする必要があります。

「コミュニケーション学」って役に立つの?
 トケコムは、伝統的に社会科学に強みを持っていますが、この「コミュニケーション学」、社会科学の他の領域―例えば、経済学や経営学、法学―に比して、将来の仕事に結びつきにくいように見えるかもしれません。なぜなら、一般企業に勤めるのであれば、経済学に関する一般的な知識も、基本的な経営の考え方も漠然と必要そうに見えるからです。
 ところがです。もう少しその具体的な業務の場面を想像してみましょう。1990年代からの30年を振り返ってみても、仕事の現場で利用される通信手段は大きく変わってきました。「電話とFax」の時代から「ポケベルとPC」、「携帯電話とノートPC」、そして「スマートフォン」へと。日々の仕事のテンポは等比級数的に加速し、それに伴って、組織のありかたやビジネスモデルが大きく変化していったのがこの30年です。実は、このような現代社会におけるメディアの変容を俯瞰的にとらえ、クリエイティブに使いこなすことで、仕事の現場でも柔軟に対応する力を養うのがコミュニケーション学です。
確かに、経済のマクロの動静を読む力や、経営組織の絶え間ない改善に取り組む能力は、経営者や管理職にとって必須の力でしょう。一方で、その前に皆さんが社会人として直面するのは、むしろ仕事の現場で異なる世代、文化的背景をもった仲間とチームでミッションを遂行する能力です。具体的には、皆さんは自分の親のような上司とも、今後急速に増える外国人労働者の同僚とチームを組んで仕事をしていくことになるので。したがって、世代や文化が異なれば、当然、慣れ親しんだメディアも、コミュニケーションの好みも異なり、このようなそれぞれに固有のコミュニケーションの「カタ」を調整する能力こそが、いまや就職活動でマジックワードになってしまった「コミュニケーション能力」の内実のはずです。

現代社会におけるジェネリックスキルとしての「コミュニケーション学」
 ゆえに、「コミュニケーション学」と聞くと、まずメディアや広告業界で働くための専門領域であったり、語学や異文化理解を元にしたホスピタリティ産業のための学問領域だと思ってしまうかもしれません。けれども、むしろコミュニケーション学とは、経済学や経営学と同じように、ほとんどの企業活動、または公的セクターにおいて求められる能力を育む領域です。今後も、仕事を支えるメディア環境の変化は早まることはあっても緩やかになることはないでしょう。だとすれば、日常生活の基底を成すコミュニケーション形式の変容に柔軟に対応しながら、円滑に仕事をこなしていく能力はさらに重要視されていくことになるはずです。その意味では、「コミュニケーション学」とは、固有の専門領域であると同時に、もはや現代社会におけるジェネリックな能力を育む土壌としての側面を持ち始めているのかもしれません。「コミュニケーション学」に関心を持った皆さん、トケコムはもちろん、数多くの大学やイベントに足を運んで、直接情報を集めて下さい。それ自体、「コミュニケーション学」の実践でもありますから。

【追記】トケコムでは、2016年度以降、アジア地域を中心に積極的に海外派遣プログラムを提供しています。ですので、メディアも国際性も、という欲張りなあなたにも向いている「コミュニケーション学」部です。

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