2019/03/19

佐々木教授がテレコム社会科学賞を受賞

 このたびコミュニケーション学部の佐々木裕一教授が電気通信普及財団のテレコム社会科学賞を受賞しました。おめでたいことです。今回は、この賞の概要と受賞のことばを寄稿してもらいました。

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 『ソーシャルメディア四半世紀 情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ』(日本経済新聞出版社, 2018年)で第34回テレコム社会科学賞を受賞しました佐々木裕一です。

 この賞は電気通信普及財団という公益財団の設けた賞になります。社会科学部門とシステム技術部門があり、私が受賞したのは前者。テレコミュニケーションに関する研究で、経済学、経営学、社会学、政策学、法学のすべての中から選ばれるものですし、該当作品なしの年もあるので、絶対的水準で評価されるかつ伝統もあるなかなか重みのある賞です。

 ちなみに2年前に『ツイッターの心理学 情報環境と利用者行動』で同僚の北村智准教授と奨励賞をもらっていたのですが、その研究奨励を受けて、今回、最も良い賞に至ったという経緯があります。近々、帝国ホテルでの贈呈式と記念講演に臨みます。

 『ソーシャルメディア四半世紀』は、実務も踏まえた私の20年以上の多面的研究成果ですので、嬉しさもひとしお。実は、昨年6月の出版以来、ネット利用者からは「子どものスマホでのSNS利用に本気で目を配るようになった」、ネット実務家からは「この歴史を知っているのと知らないのとではとんでもない差」とか「気づきが多すぎるので線を引きながら2度読んだ」とか「編集機能のないメディアについて非常に考えさせられた」など、複数の観点からとても褒めてもらっていました。



 それに加えて今回、世のためになる優れた知見として学術界も唸らせることができ、してやったりという種類の嬉しさもあります。社会科学的な実務界と学術界の2つは読む本が違って分断されているため、両者のいずれにも読ませる作品に仕上げようというのは自分に課した課題の1つでもありましたので。日本でもエンジニアは工学の論文を読みますが、文系ビジネスマンは社会科学の学術的成果をあまり読まずに、いい加減な「成功事例」的な本を読んでいることが多いんですよね。

 さて、本書の内容に少しだけ触れると、情報技術によって作られる物理的環境が私たちのコミュニケーションのあり方や内容に少なからぬ影響をもたらすという仮説がこの研究の出発点でした。この物理的環境は「アーキテクチャ」と呼ばれますが、これを相手にする際、各ウェブサービスの持つ収益モデルも詳細に分析していく必要があるという着眼がこの本の特色になります。時代とともに変化していったアーキテクチャ/利用者/収益モデルの関係をインタビューデータをふんだんに引用し、マクロデータも参照しながら描き出しました。

 歴史を詳述した帰結は、「人間同士の、そして人間とコンピュータのコミュニケーションを今より低速化させ、ひとりひとりが内省の機会と深さを得られるような情報ネットワーク社会を設計すべき」というもの。つまり現状のアーキテクチャで展開されるコミュニケーションはかなりまずいという主張です。その「まずさ」に対処するためのいくつかのアイディアも本では素描しています。

『ソーシャルメディア四半世紀』(日本経済新聞出版社のページ)

 拙著の内容は、2019年度の「ソーシャルメディア論」で余すことなく話す予定ですので、関心のある学生はどうぞ履修して下さい。

 最後になりましたが、取材に応じて頂いたネットサービス経営者の方々、その他本書を世に出すにあたりご協力いただいた方々、そして日々よい刺激をもらっている学部の同僚にもこの場を借りまして御礼申し上げます。

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