2018/12/21

今を良くするのは機械。未来を創るのは人間...「ウェブ・マーケティング論」


"今を良くするのは、機械。未来を創るのは、人間"

このゲスト講師のことばが、今年の「ウェブ・マーケティング論」(佐々木裕一担当)の受講者には心に残ったようです。「人工知能が人の雇用を奪う」とか、「いや、なくなるのは一部の業務であって、人は機械の苦手な創造的なことをするようになる」といった相反する情報に学生が接しているからかもしれません。

コミュニケーション学部で理屈の上で一番難しい科目。それが「ウェブ・マーケティング論」です。なぜかというと、学部で唯一(2018年度現在)、3年生での履修を推奨されている科目だからです。「ソーシャルメディア論」で利用者の行動や心理、「コンピュータ・ネットワーク論」で情報技術の基礎、さらには「コミュニケーション戦略論」といった企業コミュニケーションの考え方もわかったた上での履修が理解を深め、合格率も上がる科目というわけです。

今どき、マーケターを目指すのであれば、情報技術への基礎的な理解は欠かせません。味の素、キリンビール、サントリー、ソフトバンクなども含む広告主が作る日本アドバタイザーズ協会のウェブ広告研究会でも「デジタルの変化に対応できないマーケターは淘汰される」という宣言が2016年に出たぐらいですから。

そのような変化も感じてもらうため、私は必ず2回、実務者をゲスト講師を呼ぶようにしているのですが、今年のゲストは以下のお二方。

  • 株式会社電通 第3統合ソリューション局 局長 田中耕平氏
  • 株式会社ZOZO マーケティング本部 プロモーション部長 小高洋介氏

田中さんの講義のお題は「現在進行形のデジタルマーケティング」。データを用いてターゲットを複数に分けて、ターゲットごとにさまざまなメディアを用いてコミュニケーションをしていくという話でした。

購入の動機づけについて語る田中氏

過去においては、「One Target, One Communication」というようにメインのターゲットを定めて、その層に基本的に1種類の表現を用いてアプローチしていました。でもデータの恩恵によってターゲットごとに複数のアプローチが同時並行で可能になったわけです。私が広告業界にいたころは、マーケター、クリエイター、セールスプロモーションのプランナーは別々の局に所属していましたが、今は「統合ソリューション」という局に一緒にいることも象徴的ですね。

小高さんの話は、学生が日常的に利用しているZOZOTOWNということもあり、特に熱心に聞かれ、質問も多数出ました。

興味深い事例として「ZOZOTOWNで購入してくれる確率の高い人はどんな変数で決まってくるのか」という話題が登場。答えは授業の中だけで、ここでは書けないのですが、たとえば「直近3ヶ月のZOZOでの検索回数」「直近1ヶ月のZOZOでの閲覧ページ数」「直近1年での購入点数」といったもののうちどれが最も影響するのかという話です。ここでもデータが主役。その分析には、人工知能の一分野(手法)の機械学習が使われているのだそうです。

最初期のZOZOTOWN(想像と創造の行き交う街だって知っていました?)
トップページ(WayBack Machineより)

2人のゲスト講師が共通して強調していたことは、「データというのはすべて過去のことである。だから人間の行動パターンを把握するのには確かに優れているし、しかも速くそれがわかる。けれども検証するべき仮説や変数を決めていくのは、マーケティング業務においては、まだまだ人間の役割である」ということ。

ただし広告のコピーライティングにもすでにAIは導入されており、「人間よりは『おおー、いいねぇ』と思うコピーが出てくる確率は低いが、かなりのスピードで量を作るので、近い将来にそれは業務に取り入れられる可能性はある」という話もありました。

さて情報技術と人間は近未来においてどう共存していくのでしょうか?

「マーケティング」とは字義通りにとらえれば市場を作ることです。それは消費の活性化や経済成長とともに肯定的に語られることもある。けれども、情報技術によって半ば無理に欲望を作り出すものだと否定的に語られることもある。今回はゲスト講師の内容紹介でしたが、授業の回によってマーケティングへの見方が異なる、分裂的な私の「ウェブ・マーケティング論」の特徴はそこにもあると思います。


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