2017/07/03

2016年度ベストティーチャー賞 vol.1  関沢英彦さん

お久しぶり! 3月までコミュニケーション学部におりました関沢英彦です。「昨年度の学生が選ぶベストティーチャーに選ばれましたよ」と遠藤愛先生からメールをいただきました。嬉しい知らせですね。学生の皆さん、ありがとう。
わたしがやっていたのは、「アウトプット先行」の授業でした。課題にもとづいて、企画案を出すことを毎週行うのです。大教室の講義タイプの授業では、冒頭の10分間、先週の「優秀作品」を紹介します。受講者の1割程度の作品を選び、縮小コピーの上、全員に返します。「どこがいいのか」を説明するのです。その後、30分程度、パワーポイントやビデオを使って、その日のテーマについて必須の知識を説明します。そして、「今日の課題」のポイントに触れてから、50分間ほどの実習開始です。
大教室の場合は、個人作業となります。書き上げたら、関沢のいる席に持参して提出。その際、質問を受けるとか、会話を交わすこともあります。「先週のアイデアは良かったよ」とほめることも。成績の良い学生が、「この授業では、どうしてわたしの案は選ばれないのですか」と聞いてくることもあります。そうした学生も、「優秀作品」を何週かフィードバックされるうちに、自分の弱点に気づくようです。「そう、概念をそのまま吐き出しても、ダメ。もっと自分の頭で考えて」とコメントします。
教室の後のほうで、あまり授業に身が入っていないかなという学生も、企画案を何回か出して「優秀作品」になると、がぜん、目の色が変わってきます。楽しそうに、辛そうに、頭をひねっている姿が、教壇からは見えるのですね。企画案は、名前と学籍番号の他に、「企画会社名」を考えてもらっており、「優秀作品」を返す際には、その「企画会社名」で手元に渡ります。毎週、選ばれている会社は、誰なのだろうと、みんなは気になるようです。
ゼミやワークショップのような少人数形式の授業は、チームで企画。基本は、2人または3人です。2週間で、1セットという形になります。1週目の最初20分ほどで、課題に関する基本的なことを押さえるのです。例えば、「LGBT」がテーマであれば、最近の科学的知見や統計データを提供し、説明します。その後、チームで企画。課題としては、『男の子 女の子 きょうはまんなかの子』というLGBTを啓蒙するための小学生低学年向けの絵本を作って下さいといったものです。概念をそのまま論じるのでなく、表現に落としこむ中で、「自分の問題」としてとらえざるをえない状況を生み出します。
LGBT」について、知識が足りないと思うチームは、図書館に行くとか、ネットで情報を集めます。一方、別なチームは、おしゃべりをしながら、どんどん、アイデアのキャッチボール。互いのチームは、そうした気配を感じながら、企画を進めます。90分という授業時間は短いので、1週目はすぐに終わります。2週目までの間、昼休みや夕方に集まって、企画出しをするチームも。もちろん、ソーシャルメディアで、話し合うことは、どのチームもやっています。
2週目、最初の30分ほどは、先週の継続です。その後、黒板を分割して企画案を書いてもらいます。書き終わったら、プレゼンテーション。そして、投票をします。集計結果を担当者が発表。ベスト3について、「なぜ、選ばれたと思うか」をチームの人に語ってもらいます。
関沢ゼミでは、チームは2週間単位で変えていきました。誰と組むかということで、企画内容が変わってくるというシナジー効果について、実感してもらうためです。加えて、企画を進める中で、誰に対しても、「自己開示」をせざるをえません。普通は、他人に言いにくいこともアイデアを出す過程では、「つい、告白してしまう」のです。でも、発想作業の途中なので、相手も、「ああ、そう」という感じで、軽く受け流してくれます。互いにオープンに自分の内面を語れることは、良い効果を与えるようです。「先生のゼミにいて、生きるのが、ラクになった」といわれたことが何度もありました。
最初に「アウトプット先行」といいました。面白いのは、アウトプットをすると、インプットの必要性を痛感すること。切実な知的渇望感を持つので、図書館に行くようにもなるのです。「論文情報ナビゲータ(CiNii)」の活用を最初の方の授業で教えているので、そこから専門的情報を得るチームも出てきます。
発想というものは、理性も、感性も、意識も、無意識も、すべてを動員することになります。大教室の授業でも、ゼミやワークショップでも、関沢の授業に出た学生は、「なんだか、分からないけれど、こんなアイデアが出てきた」と感想を述べながら、自分の無意識の動きに敏感になるようです。みんなが驚くのは、無意識から出てきたものなのに、似たアイデアがいくつも出てくることです。とくに人数の多い大教室ではよく見られました。
そうした現象が起こるのは、みんなの根底にイメージ・スキーマと呼ばれる図として表現可能な共通した認知構造があるからだと説明すると、大変興味を持ってくれます。イメージ・スキーマを自覚したとたんに、自分や他者の思考過程への理解は深まるようです。卒論を書くときにも、「あなたがいま考えている基本的な構成をシンプルな図に描いてみたら」といって、補強すべき点を「可視化」させて指摘するといったことにも使えます。
以上、関沢の授業の特徴についてまとめました。授業を受けた学生は、「先生の授業は、楽しいから、アッという間に終わってしまう。でも、疲れる。帰りがけに坂を下りていくとき、クタクタなのが分かる」といった感想を語ってくれることが多かったですね。

なお、授業における具体的な課題内容、発想の実際などについては、以下をご覧下さい。

 

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